カカオ豆を1kg買ったら、実際にチョコレートの原料として使える部分はどれくらい残るのでしょうか。
カカオ豆は、そのまま丸ごとチョコレートになるわけではありません。
まず状態の良くない豆を選別し、焙煎して香りを引き出します。さらに、焙煎した豆を砕き、外側の皮である「カカオハスク」を取り除いて、中にある「カカオニブ」を取り出します。
その一つひとつの工程で、少しずつ重量が減っていきます。
普段チョコレートを食べるときにはあまり意識しませんが、カカオ豆を仕入れてチョコレートを作る側にとって、「購入したカカオ豆から、最終的にどれだけのカカオニブを得られるか」=歩留まりは、原料コストを大きく左右します。
藤野良品店でも、実際にカカオ豆を焙煎・加工していると、豆の状態、砕き方、機械の設定などによって、最終的に得られるニブの量が意外なほど変わることを実感します。
この記事では、カカオ豆の基本的な構造から、どの工程で重量が減るのか、歩留まりを左右する要因、そしてカカオ豆の仕入価格と実際の原料コストとの関係について、藤野良品店での経験を交えながら紹介します。
カカオ豆の約87%がニブ、約12%がハスク、残りの1%は?
カカオ豆の中で、チョコレートの主原料になる部分が「カカオニブ」です。
日本チョコレート・ココア協会の資料では、カカオ豆はおおよそ、
- ニブ:約87%
- ハスク:約12%
- 胚芽(ジャーム):約1%
で構成されるとされています。
つまり、豆の構造だけを見れば、ハスク以外の部分は約88%です。
もしハスクだけを完全に取り除き、ニブや胚芽を一切失わなければ、理論上は約88%を残せる計算になります。
ただし、これはあくまで焙煎後したカカオ豆の構成比です。
実際のチョコレート製造では、焙煎前の選別、焙煎による水分減少、粉砕時の微粉化、ハスク除去時のニブの損失などがあります。
そのため、カカオ豆100kgを買えば88kgのニブが取れる、という意味ではありません。
まず、焙煎前の選別で重量が減る
藤野良品店では、カカオ豆を焙煎する前に選別しています。
割れた豆、皮が大きく破損した豆、極端に薄い豆、小さすぎる豆、複数の豆がくっついたものなどを確認し、状態の良くないものを取り除きます。
当然ながら、ここで取り除いた分はチョコレートにはなりません。
そのため、同じ10kgのカカオ豆でも、欠点豆の少ないロットと、選別で多くの豆を除去しなければならないロットでは、実際に使用できる原料の量が異なります。これまでの経験だと、とてもよいロットで欠点豆比率が3%、とても悪いロットで10%とバラつきがあります。平均的には5%弱でしょうか。
カカオ豆の品質というと、「香りが良い」「酸味がきれい」「発酵状態が良い」といったことが注目されます。
しかし、製造する側からすると、購入した豆のうち、どれくらいを実際に使えるかということも重要な品質の一つです。
カカオ豆の選別については、こちらの記事でも詳しく紹介しています。
カカオ豆の品質は収穫時期で変わる?選別作業から見えてきたこと
焙煎すると水分が抜ける
選別の次は焙煎です。カカオ豆を焙煎すると、豆に含まれていた水分が抜けるため重量が減ります。
これは廃棄によるロスではありません。カカオらしい香りや風味を引き出すための焙煎工程で自然に生じる重量減少です。
どの程度減るかは、焙煎前の水分量、焙煎温度、焙煎時間などによって変わりますが、一般的な乾燥カカオ豆の水分量は7%前後で、焙煎後には2~3%程度まで低下します。そのため、条件にもよりますが、焙煎による重量減少は5%程度が目安です。
つまり、ここまでですでに、
購入重量 > 選別後重量 > 焙煎後重量
となります。
そして、その次に大きな重量減少が発生するのが、カカオハスクを取り除く工程です。
カカオハスクはどうやって取り除く?
焙煎したカカオ豆を砕くと、中のカカオニブと外側のカカオハスクに分かれます。
この両者を分離するために使われるのが、ウィノワーと呼ばれる機械です。
あまり一般には聞き慣れない言葉ですが、簡単に言えば、風の力を使って、軽いハスクと重いニブを分ける機械です。
軽いハスクを空気で吸い上げ、比較的重いニブを残します。
仕組みだけ聞くと簡単そうですが、実際には、「ハスクだけを100%飛ばして、ニブを100%残す」ことはできません。
なぜハスクは約12%なのに、それ以上に重量が減るのか
ハスクが豆全体の約12%なら、単純には80%台後半のニブが残りそうに思えます。
ところが、実際にウィノワーを使うと、それよりかなり少なくなることが一般的です。
藤野良品店での経験では、ウィノワー工程での回収率は、豆や運転条件によって65~75%程度です。
なぜこんなに差が出るのでしょうか。
一番大きな理由は、ハスクと一緒に、ニブの一部も飛んでしまうからです。
カカオ豆を砕くと、すべてが同じ大きさのニブになるわけではありません。大きな粒もあれば、細かな破片もあります。中には、粉に近いほど細かく砕けるものもあります。
こうした細かなニブは非常に軽いため、ウィノワーの風に乗ってハスクと一緒に吸い上げられてしまいます。
逆に、ニブを逃さないよう風量を弱くすると、今度はハスクまでニブ側に残ります。
つまり、「ニブをできるだけ多く回収すること」と「ハスクをきれいに取り除くこと」にはトレードオフがあります。
粉砕は「細かくすればよい」わけではない
そう考えると、歩留まりを左右するのはウィノワーだけではありません。
その前に、焙煎豆をどう砕くかも非常に重要です。
藤野良品店では、焙煎した豆を強く押しつぶして粉々にするよりも、ある程度の大きさを残しながら「切る」ように割る方が、歩留まりの面では合理的だと考えています。
ニブがある程度大きな粒として残れば、ハスクとの重量差が大きくなり、ウィノワーで分離しやすくなります。
逆に、粉に近いニブを大量に作ってしまえば、その分だけハスク側へ飛ばされやすくなります。
ハスクは十分に割る。しかしニブは必要以上に細かくしないことが歩留まり向上のために重要です。
ハスクがニブから剥がれているかも重要
もう一つ、歩留まりに影響するのが、ハスクとニブの剥がれやすさです。
ハスクがニブにしっかり貼り付いた状態では、いくら風を当ててもハスクだけを飛ばすことはできません。
その場合、ウィノワーを通した後でもニブ付きハスクがニブ側に残るため、人の手で取り除く必要があります。
つまり、ウィノワーの性能だけでなく、ウィノワーに投入する時点でハスクがどれだけ剥がれやすくなっているかも重要です。
焙煎後はすぐに冷却する
藤野良品店では、焙煎が終わったカカオ豆にすぐ風を当てて冷却しています。
一番大きな理由は、余熱によって焙煎が進みすぎるのを防ぐためです。
焙煎機から取り出した直後のカカオ豆は、内部まで高温になっています。そのまま放置すれば余熱によって加熱が続き、狙った焙煎度を超えてしまう恐れがあります。
また藤野良品店では、経験上、焙煎後に速やかに冷却した方がハスクがニブから剥がれやすいと感じています。
焙煎や冷却によるニブとハスクの収縮の違いが、剥離しやすさに関係すると考えられます。
ウィノワーへの投入量でも歩留まりは変わる
ウィノワーによっては、砕いたカカオ豆をどのくらいの速度で投入するかを調整できます。
藤野良品店での経験では、ウィノワーへの投入量を少なくして、ゆっくり処理した方がニブの回収率は高くなる傾向があります。
それなら常に最も少ない量で処理すればよさそうですが、そう単純でもありません。
投入量を減らせば、当然ながら作業時間が長くなります。
数kgなら問題にならなくても、数十kgを処理するようになれば、作業時間が大きくなります。
つまりここにも、
歩留まり × ハスクの除去精度 × 処理速度 × 作業時間
というトレードオフがあります。
最も歩留まりが高い設定が、必ずしも最も合理的な設定とは限りません。
歩留まりだけなら、手作業が一番いい
極端な話、ニブをできるだけ失いたくなければ、ウィノワーを使わず、焙煎した豆からハスクだけを人の手で取り除けばよいことになります。
実際、小規模なチョコレートメーカーの中には、ハスクの除去をピンセットなどを使って丁寧に手作業で行っているところもあります。
風でニブを飛ばさないため、ニブのロスを抑えるという点では、手作業が最も確実な方法です。。
豆の構成が、
ニブ約87%+胚芽約1%+ハスク約12%
なら、ハスクだけを理想的に取り除き、胚芽を残すことで、理論上は約88%を残せることになります。
ただし、この方法には大きな問題があります。
そうです。とにかく手間がかかります。
少量生産なら可能でも、生産量が増えると現実的ではありません。
これも、歩留まりと生産性のトレードオフです。
藤野良品店では、最後だけ人の手で仕上げる
藤野良品店では、ウィノワーだけですべてのハスクを取り除こうとはしていません。
まずウィノワーで大部分のハスクを取り除き、その後ニブを目視で確認して、残っているハスクを手作業で取り除いています。
機械だけで完全に除去しようとして風を強くすれば、細かなニブのロスも増えます。
逆に歩留まりだけを優先して風を弱くすれば、ハスクが多く残ります。
そこで、大量処理は機械で行い、最後の仕上げだけ人の目と手で行うという方法を取っています。
歩留まり、品質、作業時間のバランスを考えた結果です。
胚芽は取り除く?
カカオ豆には、ニブとハスクのほかに、豆全体の約1%を占める「胚芽(ジャーム)」があります。
胚芽は小さな棒状をしており、カカオニブに比べるとかなり硬い部分です。
そのまま食べると口の中に硬さが残り、食感はあまりよくありません。
日本では、この胚芽まで手作業で取り除くチョコレートメーカーもあります。
一方、藤野良品店では胚芽は取り除いていません。
チョコレートを作る際には、その後ニブをメランジャーで長時間すり潰します。
胚芽も一緒にメランジャーにかければ十分に細かくなり、最終的なチョコレートでは滑らかな食感になるため、実質的な問題はないと考えています。
また、豆全体に占める割合は約1%と小さく、藤野良品店では風味への影響も限定的だと判断しています。ちなみに藤野良品店では、胚芽だけを集めて実際に食べてみたことがあります。とにかく硬いという印象が強い一方、風味については強い味やクセは感じませんでした。
さらに一つずつ取り除けば、その分だけ作業時間も増えます。
そのため、重量比、最終的な食感、風味、作業時間を総合的に考えて、胚芽はそのまま使用しています。
米国FDAの食品規格では、ニブに残るハスクは1.75%以下
ハスクをどこまで取り除けばよいのでしょうか。
興味深いことに、米国FDAでは、カカオニブ中に残存するハスクについて、重量比1.75%以下という食品規格があります。
この1.75%という数字の背景も興味深いものです。
米国でカカオ製品の食品規格が整備された1940年代には、ハスクは硬く繊維質で、多く残ると製品が粗くなるため、できるだけ取り除くことが望ましいとされました。
一方で、当時すでに、ハスクの除去しやすさは使用する設備、カカオ豆の種類、発酵や乾燥状態、加熱条件などによって変わることも認識されていました。
通常は残存ハスクを約1%まで減らせるものの、豆によっては1.5%まで減らすことさえ難しい。
そこで、適正な製造を行った場合の現実的な上限として、米国FDAのカカオニブ規格にはハスク残存量1.75%以下という基準が設定されました。ちなみに胚芽については除去義務や含有率の基準は設けられていません。
つまり80年以上前から、「ニブをできるだけ失わずに、ハスクを十分に取り除く」という問題は、カカオ加工の技術課題だったわけです。
小さいカカオ豆は歩留まりが悪くなりやすい?
藤野良品店でさまざまなロットのカカオ豆を扱っていると、大きく肉厚な豆の方が歩留まりが高いと感じます。
一つの理由として考えられるのが、粉砕後のニブの大きさです。
また、豆全体に占めるハスクの比率は小さい豆の方が大きくなります。加えて、小さい豆は粉砕した際に細かなニブになりやすく、ウィノワーでハスクと一緒に飛ばされる量も増えやすいため、藤野良品店では大きく肉厚な豆の方が歩留まりを確保しやすいと感じています。
ただし、「大きい豆なら必ず歩留まりが高い」とまでは言えません。
豆の品種、形、ハスクの厚み、発酵・乾燥状態、焙煎方法など、さまざまな条件が関係するためです。
生豆100kgから、実際にどれくらいのニブが取れる?
ここまでの話を、分かりやすく仮の数字で計算してみます。
カカオ豆100kgを仕入れたとして、
- 選別で5%減少
- 焙煎による水分減少でさらに5%減少
- ウィノワー工程でさらに25%減少
したとします。
すると、
100kg × 0.95 × 0.95 × 0.75 = 約67.7kg
です。
つまり、
カカオ豆100kg → 最終的なニブ約68kg
となり、最終的な歩留まりは約68%です。
もちろん、ここで使った5%、5%、25%は説明のための仮定です。
実際の数字は、豆の状態、水分量、焙煎条件、ウィノワーの性能や設定などによって変わります。
3,000円/kgの豆が、実際には約4,430円/kgになる
歩留まりを考えると、カカオ豆の仕入価格の見え方も変わります。
たとえば、カカオ豆を1kgあたり3,000円で仕入れたとします。
選別で5%、焙煎でさらに5%、ウィノワー工程で25%重量が減ると、最終的に得られるニブは、
1kg × 0.95 × 0.95 × 0.75 = 約0.677kg
となります。
つまり、カカオ豆1kgから得られるニブは約677gで、最終歩留まりは約68%です。
この場合、ニブ1kgを得るために必要な原料豆コストは、
3,000円 ÷ 0.677 ≒ 4,430円/kg
となります。
仕入価格は3,000円/kgでも、実際に使えるカカオニブを基準にすると、原料豆だけで約4,430円/kgになる計算です。
しかも、ここにはまだ、
- 選別作業の人件費
- 焙煎の電気・ガス代・炭代
- 粉砕やウィノワーの電力
- ハスクを手作業で取り除く人件費
- 設備費(減価償却費)
などは含まれていません。
カカオ豆を業務用に仕入れる場合、単純なkg単価だけを比較しても、本当の原料コストは分からないのです。
安いカカオ豆が、本当に安いとは限らない
たとえば、1kgあたりの価格が少し安い豆でも、
- 欠点豆が多い
- 割れた豆が多い
- 細かく砕けやすい
- ハスクが剥がれにくい
といった特徴があれば、最終的な歩留まりは低くなる可能性があります。
反対に、購入単価が多少高くても、
- 欠点豆が少ない
- サイズがある程度揃っている
- ニブを大きく割りやすい
- ハスクが剥がれやすい
豆であれば、最終的なニブ原価では差が縮まることもあります。
もちろん、カカオ豆は味や香りが非常に重要な原料です。
歩留まりだけで仕入先を決めるものではありません。
それでも、業務用で継続的に使用するのであれば、味、仕入価格、欠点豆の割合、加工しやすさ、最終的なニブ回収量まで含めて比較することには大きな意味があります。
カカオ豆1kgが、そのまま1kgのチョコレートになるわけではない
ここまで見てきたように、購入したカカオ豆の重量が、そのままチョコレートになるわけではありません。
選別で状態の良くない豆を取り除き、焙煎で水分が抜け、さらにハスクを取り除きます。
その過程では、細かく砕けたニブが失われることもあります。
今回の計算例では、
カカオ豆100kgから最終的に得られるニブは約68kg
でした。
1kgあたり3,000円で仕入れた豆なら、使えるニブ1kgあたりの原料豆コストは約4,430円になります。
つまり、カカオ豆を見るときに大切なのは、単に「1kgいくらか」だけではありません。
どれだけ良質な豆が入っているか。
どれだけ無駄なくニブを取り出せるか。
そして、そのためにどれだけ手間がかかるか。
それらを含めて、そのカカオ豆の本当の価値が見えてきます。
これはチョコレートを作る人だけの話でもありません。
普段何気なく食べている一枚のチョコレートも、産地から届いたカカオ豆を選別し、焙煎し、砕き、ハスクを取り除き、さらに細かくすり潰すという、いくつもの工程を経て作られています。
もとのカカオ豆から見ると、チョコレートは使える部分を丁寧に取り出しながら作られている食品なのです。
一方で、チョコレートづくりの過程で取り除かれるカカオハスクも、必ずしも「捨てるしかないもの」ではありません。
藤野良品店では、カカオハスクはカカオチャイマサラ、クラフトカカオコーラ、カカオビールなどに活用しています。
また、ウィノワーでハスク側に飛んだ細かなカカオニブが少し混ざることで、飲料などに利用する際にはカカオらしい香りやコクが増し、むしろ原料としての価値が高まることもあります。
カカオハスクにはどのような活用方法があるのか、また全国でどのようなアップサイクルの取り組みが行われているのかについては、今後あらためて別の記事で紹介する予定です。
藤野良品店では、カカオ豆の味や香りだけではなく、歩留まりや加工のしやすさ、そしてハスクまで含めて、一粒のカカオ豆をできるだけ無駄なく活かす方法をこれからも考えていきたいと思います。
藤野良品店が使っているKokoa Kamiliのタンザニア産カカオ豆についてはこちらのページをご覧ください。
参考資料
- 日本チョコレート・ココア協会「カカオ豆の外皮(シェル)除去方法例」ほか
- U.S. Food and Drug Administration / 21 CFR §163.110 Cacao nibs
- 米国 Federal Register(1944年)カカオ製品食品規格制定資料
- Guide for the Assessment of Cacao Quality and Flavour
- FAO カカオ加工関連資料
